甲状腺は、のどぼとけのところにあり、甲状腺ホルモンと呼ばれるホルモンを分泌している臓器です。解剖図を正面から見ると蝶の形をしています。甲状腺ホルモンには、さまざまな作用がありますが、おおまかに言えば全身の代謝を高めるホルモンということができます。したがってホルモンの増加や不足により様々な症状が出現します。
甲状腺ホルモンが多くなると全身の代謝が亢進し体が活発に活動する方向に働きます。このため、神経質になる、疲れやすい、落ち着きがない、息切れ、いらいらする、感情的になる、集中力低下、精神的高揚、落ち込み、手のふるえ、異常に暑い、汗を異常にかく、甲状腺の両側腫大、下痢、食べても食べても痩せる、食欲が異常にある、筋力の低下、生理不順、脱毛、頻脈、動悸、不整脈、むくみ、汗かき、目が突出する、まぶたの腫れ、複視(物が二重に見えたりする)などの症状がみられます。
甲状腺ホルモンが減少すると全身の代謝が低下するため体の活動性が低下します。このため、全身倦怠感、寒がり、皮膚乾燥、脱毛などが出現します。さらに消化管運動の低下による便秘、心臓機能の低下による除脈。精神機能の低下による眠気、記憶障害、抑うつ、無気力声帯のむくみによる声がれなどもみられます。
しかし機能低下が軽度の場合は、どの症状もあきらかではないため診断の決め手とならず、診断が確定するまで長期間見逃されていることもあります。
甲状腺機能は甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンと脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンの値を見て判断します。これらのホルモン測定は特殊な検査でなく普通に外来の血液検査で調べます。比較的、頻度の高いバセドウ病には、内服治療、手術治療、放射ヨード内服治療(アイソトープ治療)の3つがあります。日本では、まず、内服治療から始めることが多いです。また甲状腺機能低下症はチラージンSという甲状腺ホルモンをその程度に応じて補充する治療となります。
甲状腺腫瘍の診療は、触診、超音波検査、細胞診が3本柱です。超音波検査の所見に応じて悪性が疑われた場合細胞診が必要になります。
上で述べた乳頭癌が日本で一番多く、甲状腺腫瘍の約93%を占め、次に濾胞癌の約4%と続きます。甲状腺乳頭癌のほとんどは、すぐに生命に関わりません(10年生存率が約98%)。ただし、初回治療後のリンパ節再発や遠隔転移再発は比較的多く約10%と言われており、経過観察が重要です。