STOP! 慢性肝臓病
近年、肝臓病で頻度が高かったC型肝炎の治療方法は著しく進歩し経口抗ウイルス薬(DAA)やインターフェロン治療の登場により感染者は激減しています。またB型肝炎も核酸アナログ製剤によりB型肝炎の増殖を抑えて肝炎を鎮静化することが可能となりました。この結果、我が国における肝癌の半数以上は非ウイルス性肝疾患由来となり、肝臓病診療において生活習慣と深く関わる脂肪性肝疾患の重要性が高まっています。
こういった状況に対し、日本肝臓学会は2023年に奈良で行われた学会総会において、ALT>30IU/Lをかかりつけ医受診のきっかけにし、肝疾患早期発見早期治療における、かかりつけ医と専門医の診療連携を促進する奈良宣言を発出しました。
脂肪肝(脂肪性肝疾患)とは肝細胞に中性脂肪が蓄積した状態のことで、さまざまな肝障害を引き起こします。従来はアルコール摂取量に基づき、非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)とアルコール性肝疾患(alcohol related liver disease:ALD)に大別されていましたが、alcoholic”や“fatty”といった用語が患者に対する社会的偏見(スティグマ)となり得ることから、2024年8月に代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD:マッスルディー)に名称が変更されました。
主な肝疾患
脂肪肝〜MASLDとMASH
代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD:マッスルディー)
MASLDはマッスルディーとは、脂肪肝に加え、肥満、耐糖能異常、高血圧、高中性脂肪血症、低HDL血症のいずれかを併発している疾患を指します。MASLDは、肥満、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の肝臓における表現型として発症し、お酒をあまり飲まない人でもアルコール関連肝疾患のように肝疾患が進行する場合があります。つまり、平たく言うとMASLDはメタボの脂肪肝です。
飲酒量はエタノール換算で男性30g/日以下、女性20g/日以下が該当します。ビールでいうと男性750ml以下、女性500ml以下に相当します。
MASLDそのものは自覚症状がなく、体調の悪さで困ることは当面ありません。しかし、放置してしまうと糖尿病や動脈硬化を誘ってしまいます。後で困らないように、MASLDと診断されたら無症状でもしっかりと治療に取り組むことが大切です。
代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)
MASHはマッシュと読みます。以前は非アルコール性脂肪肝炎(NASH:ナッシュ)と呼んでいました。
脂肪の蓄積に加え、肝臓に炎症と線維化が加わった状態が代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH:マッシュ)です。MASLDのうち将来肝硬変や肝臓がんに進展する可能性のある一段と悪い状態がMASHです。MASLDの患者さんのうちの1~2割がMASHだと言われています。
MASHも無症状ですが数年から十数年の経過で肝硬変へと進展します。肝硬変になると、だるさ、食欲低下、浮腫み、腹水によるお腹の張り、白目や肌が黄色くなる(黄疸)などの症状が現れます。いったん肝硬変まで病気が進んでしまうと、治療を行っても元の状態に戻ることはできません。
- 治療
- MASLD、MASHともに生活習慣病との関連が強く、基本的には食事や運動によるライフスタイルの改善などが早期治療の基本となります。脂肪肝と診断された方はきちんと医療機関で診断を受け、病気が進行する前に生活習慣を改善することが大切です。
代謝機能障害アルコール関連肝疾患(MetALD)
アルコール摂取と代謝機能障害の両方が関与する脂肪肝の病態を指しアルコール関連肝疾患(ALD)と代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の中間に位置する新しい概念です。ある程度の飲酒習慣(女性1日20-50g、男性30-60g程度)と代謝機能障害(肥満、糖尿病など)が複合的に作用して起こります。
C型肝炎
C型肝炎はちょっと前までは慢性肝炎、肝硬変、肝癌の最も多い原因とされていましたが、インターフェロン、経口抗ウイルス剤(DAA)等の有効な治療法の登場により感染者が激減し、最近は新規のC型肝炎患者をみることは極めてまれになってきています。
現在はインターフェロンやDAAにてウイルスが消失した後のC型肝炎患者さんの発癌チェックが主体となっています。通常年2回の腹部超音波検査、腫瘍マーカーのチェックを行います。
B型肝炎
B型肝炎とは、B型肝炎ウイルス(HBV)が血液・体液を介して感染し引き起こされる肝臓の病気です。
出産時の母児間感染や、乳幼児期に感染すると持続感染(キャリア)となり、その約10%が慢性肝炎を発症すると言われていました。1986年からはB型の母親の出産時にHBVの感染防止処置が取られるようになり、更に2016年4月1日以降は全ての0歳児にHBVのワクチンが接種されるようになり、持続感染は激減してきています。
HBV陽性で肝機能に問題が無い場合はcarrierとして年2回の肝機能、ウイルス量、腹部超音波検査による発癌のチェックを行っています。肝機能に異常がみられれば慢性肝炎に移行したとして治療を開始します。
HBVの慢性肝炎患者の治療はウイルス量と肝機能にて決まります。一般的に若年者の場合はまずIFN(注射薬)、反応が悪ければと核酸アナログ製剤(内服薬)となります。核酸アナログ製剤は直接ウイルスに作用してHBVの増殖を抑えて肝炎を鎮静化させます。肝機能が正常化しても、自己判断で内服を中止すると、時に肝炎の急性増悪を起こし、劇症化し肝不全で死に至る場合があります。従って絶対に核酸アナログ製剤を自己判断で中止してはいけません。また、血中からウイルスが消失し、肝機能が正常化しても発癌することがありますので、年2回の腹部超音波検査等のチェックを受けることが重要です。
B型肝炎の治療には、ウイルスを直接抑える抗ウイルス療法(インターフェロン療法、核酸アナログ製剤)と、肝臓を保護する肝庇護療法があります。急性肝炎の場合は、特別な治療は行わず、自然治癒を待つことが一般的ですが、劇症肝炎の場合は特殊な治療や肝移植が必要となることもあります。治療法は、患者さんの年齢、ウイルスの状態、肝炎の進行度などを考慮して決定されます。
原発性胆汁性胆管炎
原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、肝臓内の細い胆管が少しずつ破壊されていく自己免疫性の慢性肝疾患です。胆汁が流れにくくなり、肝臓に炎症や線維化を引き起こします。初期には自覚症状がないことも多いですが、かゆみや倦怠感、脂質異常などがみられることがあります。進行すると肝硬変に至るため、ウルソデオキシコール酸(UDCA)などの内服治療と定期的な検査が重要です。女性に多く、早期診断が予後に大きく影響します。
自己免疫性肝炎
自己免疫性肝炎(AIH)は、体の免疫システムが誤って自分の肝臓を攻撃してしまう病気です。原因ははっきりわかっていませんが、中高年の女性に多く見られます。進行すると肝硬変に至ることもあるため、早期発見と治療が重要です。治療にはステロイドなどの免疫抑制剤を使用し、炎症を抑えることで病状の安定を図ります。血液検査や肝生検で診断され、定期的な経過観察が必要です。
薬剤性肝障害
薬剤性肝障害は、薬が原因で肝臓に炎症や障害を引き起こす肝障害です。抗生物質や解熱鎮痛薬、漢方薬など日常的に使われる薬でも起こる可能性があります。薬以外にも健康食品、サプリメントなどが原因となる場合があります。症状は無症状のことも多いですが、重症化すると倦怠感、黄疸、発熱、かゆみなどが現れることがあります。
原因薬剤を中止することで改善することが多いですが、まれに劇症肝炎に進行することもあるため注意が必要です。複数の薬を使用している方や、自己判断でサプリメントを摂取している方は、肝機能検査を定期的に受けることが推奨されます。